家計のバランスシートで、モノの欄だけ何年も埋まらなかった——その「時価」はどこにあるのか

現金と証券の欄は毎月埋まるのに、モノの欄だけ止まっていた

家計簿をつけていて、毎月、家計のバランスシートを更新しています。左側に資産を並べ、右側に負債を並べて、差額が純資産になる、あのシートです。日本FP協会も同じ形式のシートを配布していますので、作っている方は少なくないと思います。

現金の欄は、通帳を見れば埋まります。証券の欄も、口座を開けば時価が出ています。毎月、数字を写すだけの作業です。

ところが、その下に並べているモノの欄だけが、何年も動きませんでした。本、時計といった現物の資産です。買ったときにいくらだったかは書いてあります。けれど「いまいくらなのか」は、調べるのが面倒で、一度も更新していませんでした。

他の欄は几帳面に埋めているのに、その列だけが動かない。この状態がずっと気持ち悪かったので、なぜモノだけ止まるのかを考えてみました。結論から言うと、サボっていたからではなく、モノの欄だけ作業の種類が違っていたからでした。この記事では、その理由と、実際に埋め直すときの現実的なやり方を書きます。

「時価で評価する」は、時価が存在することを前提にしている

バランスシートの作り方を説明しているページを読むと、資産はその時点の価値で書く、という説明が多く出てきます。買ったときの値段ではなく、いまの値段で書く。考え方としてはその通りだと思います。

ただ、この説明には前提が隠れています。「いまの値段」というものが、どこかに存在していることです。

現金は額面がそのまま値段です。証券は市場が毎日値段を付けています。だから「いまの値段で書く」が作業として成立します。写すだけだからです。

モノはそうではありません。値段が付いている場合もあれば、付いていない場合もあり、付いていても場所によって違います。つまりモノの欄では、「いまの値段で書く」の前に「いまの値段を決める」という工程が丸ごと挟まります。他の欄には無い工程です。

ここが、モノの欄だけ止まる理由でした。同じシートの上に並んでいるので同じ作業に見えるのですが、実際にはまったく違うことをやらされています。

替えが利くモノの時価は、拾える

ではモノなら全部が面倒かというと、そうでもありませんでした。モノの中で二つに割れます。

片方は、替えが利くものです。金がこれにあたります。私が持っている1グラムと、誰かが持っている1グラムは同じものなので、市場に価格が1つ決まっています。数量を掛ければ終わりで、誰が計算しても同じ数字になります。

この側は、証券の欄とほとんど同じ手間で埋まります。写すだけだからです。実際、私が金について考えているのは値段の調べ方ではなく、いつ動くかというルールのほうだけです。

ですから、「モノは面倒」とひとくくりにすると判断を誤ります。面倒なのはモノ全体ではなく、次に書くもう片方です。

替えが利かないモノの時価は、探しに行くしかない

もう片方が、替えが利かないものです。本がこれにあたります。

同じ書名でも、初版かどうか、帯があるか、カバーがあるか、書き込みがあるかで値段が変わります。つまり、名前だけでは値段が決まりません。自分が持っているその1冊が、いまどのくらいで取引されているのかを、個体の状態まで含めて見に行くことになります。

しかも、見に行く先が1つではありません。同じ本が複数の場所に並んでいて、それぞれ状態も値段も違う、ということが普通に起こります。1点あたり数分で済む作業でも、数十点あれば話が変わります。

この構造の詳しい話は資産になるモノとならないモノは何が違うのかに書きましたが、バランスシートの文脈で言い直すと、こうなります。替えが利かないモノの欄は、写す作業ではなく、調べる作業です。だから毎月は続きません。少なくとも私は続きませんでした。

買った値段と取得日を入れておくと、いま持っているモノの含み益がカテゴリを跨いで合計されます。

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だから「毎月きっちり全部」をやめた

ここが実務的にいちばん効いた部分です。

更新が止まっていた原因は、意志の弱さではなくやり方の設計にありました。現金や証券と同じ頻度・同じ粒度でモノを更新しようとすると、必ず破綻します。作業の種類が違うのに、同じルールを当てていたからです。

そこで、次のように分けました。

  • 替えが利くもの(金など)は、他の欄と同じ頻度で更新する。写すだけなので負荷がない
  • 替えが利かないもの(本など)は、毎月やらない。そもそも毎月動くものではないので、毎月見ても同じ数字を書き写すだけになる
  • 替えが利かないものは、金額の大きいものから数点だけを対象にする。全点をやろうとした時点で止まる

「全部を正確に」を目指すと1回も更新されず、結果として何年も前の数字が残り続けます。数点だけでも動いている状態のほうが、シートとしては正確です。ここは完璧を諦めたほうが精度が上がる、という珍しい部類の話だと思います。

どの数字を採るかで迷う

もう一つ、実際にやってみて迷ったのが「同じモノに複数の値段があるとき、どれを書くか」でした。

売られている値段と、買い取ってもらえる値段は違います。金であれば、買うときの値段と売るときの値段には差があります。本であれば、店頭に並んでいる値段と、古書店に持ち込んだときの値段は別物です。

私は「いま売ったら自分が受け取る額」で統一することにしました。理由は単純で、資産として数える目的は、いざというときに何に換えられるかを知ることだからです。売られている値段で書くと、自分の資産を実際より大きく見積もることになります。

これは金額を小さく見せるための保守的な作法ではなく、単に数字の意味を揃えるためです。現金の欄と同じ意味の数字にしておかないと、足したときに意味のない合計が出ます。

そして、時価だけでは足りませんでした

ここまでやって、まだ物足りない部分が残りました。

バランスシートは、その時点で何をいくら持っているかを並べるシートです。残高の考え方なので、書かれた数字が上がった結果なのか下がった結果なのかは、シートの上には出てきません。20万円と書いてある本が、5万円で買ったものなのか30万円で買ったものなのかは、その欄からは読めません。

実際、私が持っている本には上がったものと下がったものの両方があります。時価だけを並べていると、その二つが同じ顔をして並びます。合計だけを見ていると、増えたのか減ったのかも分かりません。

必要だったのは、時価の隣に取得価格を置いておくことでした。買ったときの値段が残っていれば、差額がそのまま含み益として出ますし、次に更新したときに前回からどう動いたかも分かります。バランスシートに書き込む数字は1つでも、その1つを出すために持っておくべき情報は2つあった、ということです。

この2つを並べて置いておく場所が手元に無かったので、自分用にモノフォリオとして作りました。カテゴリが違っても、取得価格と取得日を入れておけば含み益として横に並ぶようにしてあります。

まとめ

  • モノの欄だけ止まるのは意志の問題ではなく、他の欄が「写す作業」なのに、モノの欄だけ「調べる作業」だから
  • 「時価で評価する」は、時価が存在していることを前提にしている。モノでは「いまの値段を決める」工程が丸ごと挟まる
  • モノは二つに割れる。替えが利くもの(金など)は写すだけで済み、替えが利かないもの(本など)は探しに行くしかない
  • だから同じ頻度・同じ粒度を当てない。替えが利かないものは毎月やらず、金額の大きいものから数点に絞る。全点を目指すと1回も更新されない
  • 数字は「いま売ったら自分が受け取る額」で統一する。売値で書くと資産を過大に見積もる
  • 時価だけでは、上がったのか下がったのかが分からない。取得価格を隣に置いて初めて意味が出る

もし、バランスシートのモノの欄が何年も止まっているなら、全部を埋め直そうとしないでください。金額の大きいものを3つだけ選んで、いま売ったら受け取れる額を調べてみる。それだけで、その欄は動き出します。モノフォリオは、その3つを取得価格と一緒に置いておくために作ってあります。まずは止まっている欄を1つ動かすところから始めてみてください。

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※この記事について
本記事は個人の記録であり、特定の商品・取引を勧めるものではありません。また、税務・会計上の取り扱いについて助言するものではありません。資産の評価方法は目的によって異なります。モノの価格は変動し、記載の内容は将来の結果を約束するものではありません。